「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 京にはこうして叫ぶ癖が見受けられる。 其れは定期的ではなく、気紛れに。 「はぁ、」 叫び終わった後は叫んでいた本人とは別人になる。 あの、目を見開いて血走った風な目つきで口を開けれるところまで開けて、まるで鬼の形相となって叫ぶあの彼と、叫び終わって溜息を付きながら疲れたと言う彼とは別人だ。 何にいきなりそうも叫ぶのかは京本人も判らないと言う。 敏弥はこういう京の姿を初めて見た時に驚きもせずに眺めていたから、今など叫びだしても其れまで自分がしていた事の手を止めはしない。 「京くん、何がいいー?」 今も、冷凍庫を覗きながらアイスを選んでいた。 「苺。」 「苺は昨日俺が食ったよ」 「あー?ほんなら何があんの?」 「チョコと抹茶と練乳とバニラとラムレーズンと巨峰とカルピス」 京は首を左右に曲げて凝りを解しながら歩いてきた。 「えっとなーー」 敏弥の隣に立ち中を覗いて手をの伸ばすと一個一個に触ってはどれかなぁと呟く。 黒に金色で脇から腰あたりまでラインの入ったタンクトップを着る京の首元には、伸びかかった金色の毛先が触れていた。 敏弥は暫く眺めていたが、少し口を開けるとそのままに首元に顔を落とした。 舌で舐めて少し吸って、其れを 二、三度繰り返してから犬歯をたてる。 「いったッ」 ぎりぎりと歯を左右に動かして、皮膚を破る訳ではないがそんな事をしてみる。 敏弥の衝動的行動。場所はどこでもいい、首だろうが鎖骨だろうが腹だろうが足だろうが腕だろうが。咬めればいいのだ。 言えば京が叫びだすのと同じだ。敏弥自身どうしてこうしたくなるのかは判らない。時々京と一緒に居るとこうしたくなる。初めてした時に京が嫌がりもしなかったから続けている。しいて言えば終わってから頭を軽く叩かれた事ぐらいだが、其れも初めての時だけだった。 「俺抹茶にしよ」 京も京とてそれまでの行動の流れを止めはしない。 冷凍庫から抹茶を取り出して其の場でがさがさと袋を開ける。 「じゃ、俺は巨峰〜」 此れは相互依存だと敏弥は思っている。 京に一度訊いた事があった、誰の前でも叫べるのかと。 「いや、敏弥と居る時だけやけど?」 一人の時ですらも叫ばないと言った。 「よう判らんけど聞いて欲しくて叫んどうみたいなとこがあるから、敏弥は聞いとうやろ」 「殆ど聞き流しじゃん」 「でも耳には入っとんのやろ。又叫んどるなぁて」 「まぁそりゃそうだけどサ」 「そんなもんでえぇねん」 其の会話の後に今度は京から訊かれた、同じ様に誰にでも咬み付くのかと。 「京くんにだけだよ、」 女にすらもそんな気持ちは沸かないのは事実だ。そんな自分を異常だとは敏弥は思っていない。 「何で咬みつきたいん?」 「んーーー落ち着くからじゃね?」 「自分で判らへんのかい」 「アレだよ、赤ちゃんが指咥えたりで何か吸ってないと落ち着かないのと同じ感覚」 「俺の体はおしゃぶりか」 「落ち着くんだからいいじゃん」 第三者から見れば明らかに自分たちは異常だ。然し当人たちにそんな自覚は全くない。 ないがそんな自分の一面を見せれるのがお互いだけなのだから此れは明らかな相互依存でしかない。 だからどうという訳でもないのだ。 毎日であり日常であり。 毎晩、一つのベッドで抱き締め合って寝る事が自分たちの普通である事と、叫ぶ事も咬みつく事も何の変わりもない。 今日の湿度は30%。 クーラーの効いた部屋でのアイスの味は甘く美味しい。 |
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