禁猟区域




 「ただいま」

 この街は雨天の日が多い。

 「お帰り便利屋の薫さん」
 
 今日も朝から雨が降っていて、昼過ぎになって其の足は強まってきた。

 「こーんな紙もろてきたで〜」

 遠くで雷が太鼓を叩く音が二回立て続けに鳴った。
 
 「もろてきたんやなくてパクってきたんやろ?」

 ベッドで白いシーツが擦れて、半分が床に垂れ落ちた。

 「ちゃうって、もろてきたんやって。」

 ピランと、京の顔の上に置かれた紙は乱雑な折り目が付いている。

 「何、此れ…」

 “闇街第一級密売買常習犯”の文字。

 「お前リーダーやん?」

 薫の持たれた虎の吠える姿が彫られたジッポが煙草を焦がし、焦がされた煙草から紫煙がゆらりとの昇った。

 「やーからって此れかいや〜…つか誰にもろたん?」

 シーツを全て床に落とすと京は其の傍らに落ちていたボクサーパンツとインディゴブルーのジーンズに手をかける。

 「ダックタウンのお医者。」

 ダックタウンは昼間でもネオンがチカチカと目に痛い界隈。

 「あぁ、あの政府に賄賂渡して美味しい汁吸ってる」
 
 其処の安っぽいシーフードレストランの地下に腕利き目利き頭の切れる表面上は医者、本来は情報屋の男が住んでいる。

 「政府でそんなんが作られとるのやとさ」

 紫煙を吐いていた煙草はもう灰皿の上で潰れていた。

 「……教育的指導したろかな」

 京は薫の腰掛けているテーブルの上に置かれたペットボトルを取りながら低い声で呟いた。

 「やーめとけやーめとけ、鼠が鷹に向かってったって餌なるだけやで」

 薫は爆笑しながら京の頭をぐりぐり撫でた。

 「嘘やん。」

 撫でられている事を気にはせず薫の先ほど使っていたジッポで煙草に点火する。

 「銃の引き金引いてまで天国を俺は見たい思わへんわ」

 薫は撫でていたのを止めて其の手を京の頭の上に置きっ放しにして咽でくくっと笑った。

 「何ぃな?」

 京は怪訝な顔で薫を上げながら、自分の頭の上にあった手を握った。

 「俺はむしろひょうひょうと笑いながら嘘ついて嘘つきながら引き金引く其れだけやのになぁと思って。」

 薫は握られた手をされた力よりも強い力で握り返した。

 「薫くんの其れて無意味に死にたかぁないって事やんか?」

 「まぁ、京くんと同じ意味やな」

 「お互い鳥籠の住人様やからな。」

 京は少し背伸びして薫に触れるだけのキスをすれば薫は応えて背を丸めて京に触れるだけのキスをした。

 又其れに乗じた京は薫の首に腕を絡めて抱きついて薫も乗じて小柄目の腰と後頭部に手を回す。

 口を開いて舌を絡めて何度も交わす中で二人は小さく笑い声を漏らした。

 「京くん、」

 「え〜?」

 「新市街地」

 「行きた、ないで」

 「何や」

 「おもん、ない、やん」

 「何で?」

 「綺麗。」

 「汚い?」

 「そ、汚い、自由な、俺、等、に、あんな、街」

 「合わん、て、か」

 「ふふ、」
 
 「そやな。」

 「やろ?」

 「俺等、には、旧市街地、が、合っ、とうか」

 「ふふ、この、街、からは、出れ、んやろ」

 京は一度唇を離しした。

 「この街は生きとうて思わせてくれるから離れとうないねんで」

 そう言ってもう一度やけに楽しげな笑顔をしてみせた。










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