其れは掌から砂が零れ落ちるのとまるで同じ感覚だ。
どれだけ両手の隙間を、指の隙間を狭めようとも、粒子はサラサラと零れ落ちていく。
注がれても注がれても、まるでこの手に溜まるのを拒むようにすら感じるのは悲観的過ぎるだろうか。

どれだけ女性を抱こうととも悦べない。
どれだけ柔らかい身体に身を委ねても安堵出来ない。
どれだけ中に這入ろうとも理性は切れない。
どれだけ甘い言葉をかけられても満たされない。
どれだけ異性という其れに触れても何も得ない。

喪失感と焦燥感そんなものばかりが募って、毎夜そうして自分を追い込んでいるふうにすら思うのだ。

恋してやまないただ一人の彼。
届かないこの手はこの身体は、しがなく代わりを立ててはそこに彼を見て抱いている。

女の喘ぎ声に聞いたこともない彼の喘ぎ声を聞く。
女の悦ぶ顔に見たこともない彼の悦んだ顔を見る。
女の熱い吐息に触れたこともない彼の吐息を感じる。

酷い妄想壁だと嘲笑してしまう。
これではまるで自慰と同じではないか。
思春期の少年ならまだしも、いい大人が、いい大人が―よほどに思春期のほうが勢いに乗って告白など簡単にしてしまえていた。
大人という生き物はつくづく理屈を考えてはそこに逃げてばかりだ、無垢な子供のように何も考えずただ素直にただこの想いを伝えることが出来たならば。

気持ちが手に入らずともいい。
せめて、其の身が手に入ればもういい。

彼を抱いて悦びたい。
彼に身を委ねて安堵したい。
彼に這入って理性を切らしたい。
彼の言葉で満たされたい。
彼に触れて得たいのだ、彼を愛しているという己の気持ちの確信を彼を抱いて得たいのだ。
所詮自己満足で構いはしない。



「京くん、」

レコーディングスタジオ内の会議室のソファーの上、横たわる京の胸は穏やかな呼吸に上下している。
白い頬は京が日に当たる事を好まないことを物語っていた。薄いピンク色をした唇が、柔らかな女のようなラインを描いているということには最近気が付いた。
傾けられた顔にかかる金糸を堕威は指の腹で優しく撫ぜながら、少し自嘲的に笑むと背を屈める。

「せめてな、」

掠めるように重ねた京の唇は随分とかさついていた。
知らないところで口付けるくらいは無罪だと、年甲斐もなく赤面しながら内心誰にでもなく必死に言い訳をする。己の行動に羞恥を覚えずにはいられないが、半面では酷く喜々としていた。
愛しい人への口付けにこんなにも動揺させられ心躍らされている。10代の頃、両想いになった少女と交わした口付けのときに感じた情動とは全く違う。

「好きやで、京くん」

自分の声なのに、人のもののように聞こえるほど其れは優しい響きだ。まるで愛情に溢れた親が子を呼ぶような、無垢の色。
掌で包むように触れた京の頬は、子供のように少し高い体温を伝えてくる。
恐らくこれが一番安堵できる体温なのだとろうと、堕威は笑んだ。















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